インクルージョン(inclusion)
「inclusion」は日本語で「包摂」「包括」「社会的な一体性」などを意味する。ビジネスにおける「インクルージョン」は、多様な個性や経験を持った人材が互いに尊重され、それぞれの能力を生かした企業活動ができている状態を指す。もともと、社会福祉の分野で提唱された概念で、弱い立場の人を社会から切り離すのではなく、支援しながら彼らの能力に期待するという考え方。例えば、障害のある子供と障害のない子供が共に学ぶ仕組みを「インクルーシブ教育」という。
1970~80年代、フランスをはじめとする欧州では移民の増加や産業構造の変化から、長期失業や不安定雇用などの社会問題が生じた。貧困から抜け出せなくなった労働者たちは、十分な社会保障を受けられず、社会に参加する機会を損失していった。この状態を「ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)」という。こうした「社会的に排除された弱者」を支える必要性が唱えられ、インクルージョンという概念が生まれた。
ビジネスにおいて、多様な人材を積極的に活用することを「ダイバーシティ(多様性)」という。ダイバーシティに取り組む企業は多いが、多様な人材を確保しても、活躍できる場が整備されていなければ、せっかくの能力を発揮できない。そこで注目されたのが、「個々の違いを尊重し、それぞれの能力が発揮される」という、インクルージョンの考え方だ。ダイバーシティを前提条件に、インクルージョンな環境を整備することを「ダイバーシティ&インクルージョン」という。
現在では、「ダイバーシティ&インクルージョン」にエクイティ(公平性)を加えた、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)と呼ばれる考え方も普及している。DEIでは、個々の違いに合わせた「合理的な配慮」を講じて、公平性を保つことが重要とされている。
(青木逸美)